脳腫瘍の男 ① 大人の童話

*この物語は

闘病中、追い込まれ、その時に映像が思い浮かび 

まるで私を救うかのように このストーリーが

まるで映写機の映し出されたように 見えました。 

 

その時の物語です。

白昼夢を文章にしただけですので

ところどころ、変ですが

お楽しみください

 

 

脳腫瘍の男 ゑ莉 

 

「お宅のお子さんには、大きな脳腫瘍があります。 

これが、とても難しい場所にあって、摘出手術するのは、無理なのです。

 唯、今のところ、脳腫瘍が脳自体に何の悪影響を及ぼしてはおりません。

 産むか産まないかは、お2人でご相談した方がいいのではないでしょうか。

 わたしの一存では決められません。」

医者は未だお腹の中にいる子供のエコーの映像を見ながら、夫婦にそう伝えました。

 

夫婦は子供が欲しくて、欲しくて、でも、なかなか赤ちゃんを授かる事が出来ませんでした。 

年を取って、もう、50歳近い夫婦。

ようやく、授かった赤ちゃん。 最後のチャンスに等しい。 「わたし達、産みます。障害を持っていても、愛情いっぱい注いで育てます。」 

 

赤ちゃんは、安産で産まれました。

 元気な赤ちゃん。

 

 夫婦はそれだけで、十分幸福でした。

 赤ちゃんはスクスク育ち、脳腫瘍の影響もなく、とっても元気に成長しました。 

勉強はあまり出来ませんでした。でも、絵を描いたり、泥や粘土で動物を作ると、皆びっくりするほど、素晴らしい作品を創り上げてしまう才能を持っていました。

 夫婦は愛情をいっぱい注ぎ、のんびりやさんで、多少、引っ込み思案だけど、無理に 勉強しなさいとか、塾に通わせるなんて事は一切せず、彼を優しく温かい目で、見守っていました。 

最初はのんびりやさんの彼は苛められたりもしました。 でも、そんな事を両親には言わず、「そんな時は唄おう。」 両親の前で唄ってあげました。 

それは学校で習った曲ではなく、彼自身が放課後の音楽室のピアノで作った曲です。 ピアノなんて習ってません。 

でも、彼の目にはピアノの鍵盤を見るだけで、どのコードにどのメロディを組み合わせるか。本能で詩っていました。 

 

そのまま、彼は成長してゆきました。 

中学生になり、周りの友達は女の子の話ばかりしてました。

 でも、友達が男性誌の裸のグラビアを楽しそうに見てるのだけど、

 「お前も来いよ。」と言われ、一応見たのだけど、なんにも思いませんでした。

 

 男性は毎日精子が作られる。皆、友達はマスターベーションします。 

なのに、彼は一度もそんな欲求にかられた事がありませんでした。

 「僕、どこか、おかしいのかな?裸の女の人見ても、周りの同級生の女の子にも興味がないや。脳腫瘍のせいかなぁ?」 

 

両親は勿論、脳腫瘍の事が心配でした。 MRIで調べても、しっかり大きな脳腫瘍があります。 

でも、先生方も不思議に思ってるのだけど、その脳腫瘍が彼の脳自体になんの悪影響も及ぼさない。

身体的にも。 実際、その脳腫瘍自体、頭を開けて調べたわけではありません。

 ずっと、謎のままでした。

 年に一度、脳の検査をするので彼自身も、自分の脳腫瘍の事は知っていました。

 

 中学、高校、大学と彼は、さほど、成績はよくありませんでしたが、努力して、中のちょっと下くらいの大学に入りました。

 ずっと、彼は悲しい事や辛い事があると、一人で絵を描いたり、物語を作ったり、 彫刻でも、版画でも、なんでも思うが侭、創っていれば、自分で気持ちを落ちつかせる事が出来ました。 

大学そして就職。

 

 小さな会社です。 リストラされ自殺する中高年も多い時代。

人はあぶれてるのに、人手不足。 彼は苦手な営業もしなければならなくなり、忙しくなりました。 

そんな時ストレスは彼を苦しめます。 「頭が痛い。」 

 

ある日、同僚に「パーっと酒でも呑もうぜ。こんな時はさ~。

あと、女だ。今日はちょっと、洒落た所で女の子達とコンパだ。

お前が酒呑めないのも女に興味ないのは判ってるけど、たまにはどうだ?付き合えよ。」

 

 半ば無理矢理、彼を心配する同僚がコンパと言う物に連れてかれました。

 

 彼は自分のルックスに自信もないし、女の人と喋るのも得意ではありません。

 でも、行ったお店は少々有名らしく、綺麗で洒落たお店で、ピアノもありました。

 他の楽器もありました。 彼はコンパだのお酒だのどうでもよくて、

ピアノが弾きたくなり急にお店の主人にも断らず、勝手に弾き始めました。

 

 それは誰も聴いたこと無い音楽なのに、皆を懐かしい思いにさせました。

 他のお客さんも聴き入ってました。 終わったら拍手と歓声が飛びました。 

「あ~やっと頭がいたいのが治った。」 本来は黒人のジャズミュージシャンを選んで、週一ライヴをやったりするそうです。 

 

ジャズマニアのお店の主人も感動し、「是非、家で週一でいいから弾いて欲しい。」 と、彼に頼みました。

彼は今、両親の元を離れ一人暮らし。

ピアノもないし、暇もないので絵を描いたり、彫刻でもなんでもいいから何か創りたいけど、粘土でもいいのだけど、

忙しすぎて寝る時間もない状態なので一人暮らしのアパートに帰っても、 

「まずは寝なくちゃ、明日も早い。」

そう零して布団に入るのでした。 

 

でも、湧いてくるイメージは止められません。

 以前より、湧いてくるものが多くなり、それを創る事に夢中になってれば、彼はとても満ち足りた気持ちになるのでした。

 「安いギターでも買おうかな?でも、隣近所に迷惑だな~。」

そう思ってた彼は、喜んで店の主人に言いました。 

「深夜でも、昼の空いた時間でも、構わないですか? 僕、今忙しいので空いてる時間がまちまちなんです。」

 店の主人はそれでも構わない。店の主人は「久しぶりに感動した。初めてレコードを買った時のことを思い出した夜。

実はジャズ批評家の仕事もしているが、キミの奏でるピアノは、そんな事は遥かに越えたものだ。音楽家にはならないのかい?

此処はこっそり、音楽好きや音楽関係者が集まるんだ。」

 「いいえ。なりません。僕、健康で親孝行して、こうやって、何か音楽でも絵でも何でも創れたらそれでいいんです。」

 店の主人は「なんだか、とても惜しいな。その才能は今の時代、皆に必要な物という気がするんだけどなぁ。」 

 

つづく。