脳腫瘍の男 24話

どっぷりと夜は暮れ

気付けば、もう0時を廻っていました。

脳腫瘍の男と彼女は店を出ました。

 

彼女は久しぶりのお酒にすっかり酔っぱらってしまいました。

 

「もう遅いから帰りましょう。体調はどうですか?」

脳腫瘍の男はホスピスまで連れて帰ることにしましたが

彼女は嫌がりました。

だだっこのようです。

 

「こんなの宵の口よ!

ここの近くに星空がきれいな場所があるの。

教えるから連れてって!」

 

お酒を飲んで少し性格が変わったようでした。

困った脳腫瘍の男は、彼女の行きたい場所に行けば納得して帰ると思い

車に乗せて、その場所に連れて行くことにしました。

 

行きの風も心地が良かったですが

帰り道も彼女は窓を開けて、ほてった頬を冷やしています。

気持ちよさそうな表情。

 

脳腫瘍の男は彼女の言う星空のきれいな場所まで連れて行きました。

公園のようでしたが

広大な敷地で一面は芝生のようでしたが

蓮華がいっぱい咲いていました。

 

彼女は、また駄々をこねました。

「車椅子なんて、もういや!

抱っこして!

抱っこして、蓮華の真ん中まで連れてって!」

 

脳腫瘍の男は困り果てながらも彼女の言うとおりにしました。

 

 

彼女は想像以上に

とても軽く

ひょいっと軽々抱き上げました。

 

彼女は笑いながら

「お姫様抱っこなんて

なんだか嬉しい!」と

はしゃいでいました。

 

公園の真ん中まで来ると

一面の蓮華が月夜に照らされ白く浮かんで見えます。

とっても幻想的です。

蓮華の絨毯に彼女を降ろしました。

 

彼女は空を指さし言いました

「ほら!見て!星がとっても綺麗よ!

ここはお気に入りの場所なの!

ああ、また来れるだなんて思いもしなかった!」

 

脳腫瘍の男も空を見上げました。

本当に星が綺麗で

流れ星もたくさん見えます。

脳腫瘍の男は思わず星空に見とれてしまいました。

 

すると彼女は突然、脳腫瘍の男にキスをしました。

 

あまりにも突然の人生初のキスに

ビックリした脳腫瘍の男。

 

「あ、、、あああ」

脳腫瘍の男の体に何か稲妻のような電気のような「何か」が走りました。

 

脳腫瘍の男の表情が強張っているので

彼女は驚いて「どうしたの」と聞きました。

 

「ぼ、ぼ、ぼく。。。キス初めてで

そ、その、あの・・・

オカシイんです!

ど、ど、どうしたんだろ?」

と脳腫瘍の男は言いました。

 

びっくりした彼女は「キス初めてなの?

え?今まで女性と付き合ったことないの?」

と質問すると

 

「ないです!

あなたが初めて好きになった人で

初めてキスした人で

えええっと

ぼ、ぼく、今、変です!」と

前かがみになりました。

 

彼女は状況を飲み込めました。

くすっと笑いました

 

「決して変じゃないわよ

健康な男性なら、そうなるわ。

でもね、私の体を見たら、そんなのすぐに治るわ」

 

そう言って

上に着ていたジャケットを脱ぎ

シャツのボタンをはずしました。

そして彼女は自分の胸を脳腫瘍の男に見せました

 

「ほら。

乳がんだったの。

切除したわ。

両方切除したのに全身に転移していたの。

醜いでしょ?

私の体はちっとも綺麗じゃない。。

切り刻まれて醜いわ。。

でも、判ってるからいいの。

ここに来れてとても嬉しいから・・」

 

彼女が言い終わる前に

脳腫瘍の男は大声で叫びました。

「あなたは美しいです

とっても美しいです!」

そして彼女を抱きしめました。

 

脳腫瘍の男にとって

生まれて初めてのキス

そして生まれて初めての勃起をしました。

 

彼女は驚きました。

そして言いました

 

「前のボーイフレンドは片方切除した胸を見て

離れて行ったのよ。

そんな、、美しいはずはないわ」

 

脳腫瘍の男は

「誰がなんと言おうと美しいです。

それに、、、僕、その。。。

は、はじめてなんです!

女の人見て勃起したのは!」と恥ずかしそうに言いました。

 

2人はそのまま

蓮華の絨毯に寝ころび抱き合っていました。

長い長いキスをしました。

 

他に誰もいない

あるのは星空だけ。

 

脳腫瘍の男が彼女の肌に触れると

不思議です。

 

触ったことのなかったピアノや

触ったことのなかったギターや

触ったことのなかった三味線を

彼は演奏できたように

彼女の体をどう奏でれば良いのか

判ってしまうのです。

 

とても自然なことのように

彼女は受け入れました。

 

何時間経ったのでしょう?

それすらも判らない

言葉すら意味がない

それくらい気持ちも身体も通じ合ったmake love

 

そして脳腫瘍の男は彼女の体の中で射精しました。

 

 

気付けば空は白んでいました

脳腫瘍の男は

彼女を車に乗せホスピスに送りました。

 

もう

すっかり朝になっていました

 

つづく