脳腫瘍の男 20話

脳腫瘍の男と彼女はしばらく見詰め合っていました。

 

車の窓から覗いてる政界のドンは

奇跡のような出会いに胸打たれていました。

思いついた「閃き」を早く脳腫瘍の男に伝えたくて仕方がありませんでしたが

初めて恋した相手とのご対面シーンを邪魔する気はありません

 

そーっと様子を窺っていました。

 

すると

彼女は手招きをしているようです。

 

「僕そこに行っていいんですか?」と2階に聞こえるように大声で叫ぶと

 

彼女は首を縦に振りました。

 

脳腫瘍の男は政界のドンのほうをチラっと見ました。

政界のドンはあわてて

「行け!馬鹿!こっち見るな!行け」と合図を送ると

脳腫瘍の男は建物に入ってゆきました。

 

2階まで上がると

車椅子で廊下で待っていた彼女は

微笑んでいました。

 

脳腫瘍の男は英語の成績は、あまり良くなかったのですが

感性で英語を聞き分け喋る音楽的能力があります。

 

彼女は「Hello! Where are you from?

こんにちは。

どこから来たの?

近所に住んでるの?

ここいらでアジア人は珍しいから・・・」

と脳腫瘍の男に尋ねました。

 

脳腫瘍の男は「はい!日本から来ました。近くの別荘にいます」

と応えました

 

彼女は細い声で喋りだしました。

「あら。そうなのね。

どうして、こっちを見ていたの?

私はここに来て以来、この施設以外の人に合うのは初めてだから

好奇心かしら?

喋ってみたくなったの。

それに不思議なの。

あなたと会ったことがあるような気がして・・

ごめんなさいね

変なこと言ってしまって」

 

脳腫瘍の男は大きく首を横に振り

「変なことじゃないです

僕もあなたを何度も夢に見てるから・・・」

と言うと

口をつぐみました。

 

彼女はくすっと笑いました。

「夢?そうね。もしかして夢で逢ってるのかも知れないわね

ロマンティックだわ

ここでは、そんなジョーク、誰も言ってくれないんですもの。。」

そう言うと

毛糸の帽子を目深にかぶってる彼女の顔が暗くなりました。

 

脳腫瘍の男は慌てて

「あの・・ぼく、毎日、会いに来ていいですか!

きっと、あなたを笑わせます。

ぼく、ジョーク言います!」

と言うと

 

彼女は笑い出しました。

「ほんとうに変わった人ね。

いいわよ。

遊びにいらして。」

 

脳腫瘍の男は大喜びで建物から飛び出てきたと思いきや

政界のドンの待ってる車に乗り込みました。

 

政界のドンに抱きついてちゅーまでしました。

 

苦笑いする政界のドンは

言いました。

「お前さん、脳腫瘍のこと、すっかり忘れてるだろ??

俺のエイズが治ったのは誰のおかげだ??」

 

脳腫瘍の男は、はっとしました。

 

政界のドンは、さきほど閃いた名案を脳腫瘍の男に教えました。

「お前さんの脳腫瘍の分泌物で

俺の病気も治った

マウスの実験では末期の癌もどんな難病も治ったそうじゃないか。

と言うことは、彼女もお前さんの脳腫瘍のおかげで助かるってことじゃないか。

お前さんの実験研究した病院に電話して確認を取っておく。

きっとお前さんは彼女と出会う運命だったんだな。

良かったな!」

 

脳腫瘍の男は大喜びして、また政界のドンに抱きつきました。

 

ですが

まだ彼女とは出会ったばかり

脳腫瘍の男は自信なさそうに

「でも、こんなこと彼女は信じてくれるかな?」と

呟きました

 

政界のドンは

「俺を誰だと思ってる?

裏で上手くやるから

心配するな

でも色恋とコッチは別だ

ちゃんと惚れた女に思いを伝えて物にしろ!」

と脳腫瘍の男の肩をポンと叩きました。

 

 

 

つづく