脳腫瘍の男⑲

翌日、また、あの黒くて長くて立派な高級車に乗り込み 政界のドンは脳腫瘍の男を 目的の場所へ連れて行きました。 

 

そう。 脳腫瘍の男が夢で見た建物 芝生は綺麗に刈られていて 清潔そうな白い建物があり とても管理の行き届いた敷地です 

 

脳腫瘍の男は政界のドンに聞きました。 「ここはなんですか?」 

 

政界のドンは 暗い表情で応えました。 「ここはホスピスだ。 末期のがん患者や 余命を宣告された人たちの最後の砦だ 

 

俺のおふくろも病気で苦しんで死んだだろ? だから、俺の別荘の近くにこんな陰気で辛気くさいもんが出来やがって!と 出来た当初は抗議までしたんだ。 

 

お蔭で良く覚えてる それでお前さんの絵を見てびっくりしたんだ 

 

お前さんの惚れた女は、ここの患者だな もう、助からない命と言うことだ」 

 

 

脳腫瘍の男は顔が青ざめました 

 

「あの人は病気なのですか?余命幾許もないのですか! 僕の初恋なのに・・・」 

 

政界のドンは 「おい。まだ、夢の女に会う前から落ち込むな 現実を確かめてから落ち込め!」 と肩をたたき気合を入れてやりました 

 

脳腫瘍の男はおずおずと車から降りて 夢と全く同じ場所で建物を見上げていました 

 

とにかく初めて心ときめく人に会いたかった あの夢は現実なのか? 確かめたかったのです。 

 

そして その時、2階の窓から誰か、こちらを見てる気配を感じました。 

 

そう 夢に出てきた女性です 

 

首は細く長く 帽子をかぶっています 

 

政界のドンも車の窓から様子を覗っていました ゴクンと唾を飲み込みました 脳腫瘍の男が描いた絵の女性とそっくりな人が 実際に目の前にいる。 

 

全く同じ景色、建物、同じ女性 持ってきていた絵と目の前にある状況を見比べながら 流石の政界のドンも、ここまで次々と不思議なことが続き ぞっとして身震いをしました。 

 

 

脳腫瘍の男は夢に出てきた女性に会えて ビックリするのかと思いきや まるで、懐かしい友人にあったような とても穏やかな気持ちで彼女を見上げていました。 

 

 

お互い、目があいました その瞬間、脳腫瘍の男は微笑んで手を振りました 

 

本当に懐かしい優しい気持ちだったのです。 

 

窓から見下ろす彼女は 少し驚いていましたが 不思議なことに 彼女も笑顔で手を振りかえしました 

 

政界のドンは 二人の様子を見て「ヤタ!」と声を出して喜び 運転手にも「お前、今のみたか!あいつ、やったな!」と 子供の用にはしゃぎました 

 

そして 政界のドンは 「もしかして・・・」と呟きました ある名案が浮かんだのです。 

 

つづく