脳腫瘍の男⑮

脳腫瘍の男はびっくりしました。 「フロリダ!?え?どうしてフロリダなんですか?ぼ、僕も行くんですか?」 

 

政界のドンは 「そりゃそうだ。お前さんが来なきゃ意味がない。空港券はこっちで手配する。 

俺とお前さんの本当の意味での『夢』が掛かってる。」 

 

脳腫瘍の男は何が何だか判らず政界のドンに理由を尋ねるのですが

政界のドンは 「何も聞くな。フロリダに行けば判る事だ。俺もこんな事で行動起こすなんて自分でも変な気分だ。荷物なんか要らないから今週中には行くぞ。 身一つでいい。 金も俺が持ってるから気にするな。」 

 

脳腫瘍の男は突然の事に驚くばかりです。 

 

あたふたする脳腫瘍の男をアパートまで送った帰りの車の中、 政界のドンは一言も口を利いてくれませんでした。 

 

脳腫瘍の男はアパートに帰っても中々寝付けませんでした。 「フロリダに何があるんだろう?」 

 

ようやく空が白んで眠りに入った脳腫瘍の男の部屋に電話の音が鳴り響きびっくりして起きました。 

 

政界のドンからでした。 「明日には行くぞ。迎えに行かせるから俺は成田で待ってる。パスポート忘れるなよ!」 

 

そう言うと脳腫瘍の男が「明日ですって?」そう返事をする間もなくガチャンと電話が切れました。 

 

脳腫瘍の男は慌てました。 急に言われても海外旅行ですから普通パスポートだけ持っていくという感覚はありません。 

 

旅行につき物のカメラだのフロリダの「地球の歩き方」やらのガイドブック、「あ、パスポート、パスポート!」脳腫瘍の男の頭の中はぐるぐる部屋の中であたふた。 

 

でも、ふと「フロリダって何処?」 

 

 

一応パソコンもあるのだからネットで検索すれば出てくるものなのに、こういうとき人間は慌ててしまって、彼は「合羽も必要かな?いや、折り畳み傘の方が便利かな?あ!お腹壊した時のお薬とか必要かな?」 

 

そんな事をぶつぶつ言いながら部屋の中をぐるぐるしてました。 

でも落ち着いて政界のドンの言葉を思い出しました。 

 

「そう言えば身一つでいいと言ってたなぁ・・・ いっぱい持って行ったら怒られそうだなぁ。。。 」

 そして、両親にフロリダに行く事になったと電話で報告しました。 

 

両親は内心、心配していましたが息子が行くというのだから反対はしません。 

 

理由も説明出来ない彼は困っていました。 そりゃそうです。 本人にも判らないのですから。 

 

そんな息子の困った様子に両親は何も聞かず「気をつけて行ってらっしゃい」 とだけ言ってくれました。 

 

彼は何だか両親のその一言に安心して昼寝してしまいました。 

 

翌朝、又、あの真っ黒な高級車が来ました。 脳腫瘍の男は車の音に気付いて直ぐ小さなリュック背負って外に出ました。 「ガス電気よーし!後は戸締りよーし!」 そう言って車に乗り込みました。 

 

つづく